たのしいロゴづくり -文字の形からの着想と展開

ロゴデザインの基礎づくりに
ロゴデザインのテクニック、アイデア帳的内容から実際の企業とのやりとりを含めたメイキングまで収録されており、ロゴデザインの教科書と言える一冊です。文字の形から着想を得ていて、1文字1文字丁寧に解説されている為、独学でロゴデザインを始める方にぴったりです。テクニックの紹介がとても役に立ちます。

はじめに
若い頃、ロゴのデザインは、きっと自分とは異なる何か特殊な技術を持った専門家の仕事なのだと感じていました。
それくらい私にとって、ロゴは別世界のデザインでした。ところがある時、ロゴを得意とするアートディレクターの方に、「ロゴは文字の延長線を考えるんだ」と教わり、急激にその面白さに目覚めることになりました。「文字の延長線」。それは言い換えるなら、文字の形としての可能性を考えることです。
私たちが“A”という文字の形を思い浮かべる時、多くは明朝体(セリフ)やゴシック体(サンセリフ)の“A”くらいではないでしょうか。しかし、真剣に文字を見つめてみると、実は数限りない“A”の形が存在します。
「こんな形でも“A”と読めるんだ」「あ、こういう“A”もあるんだな」。
そんな驚きと面白さが、私をグイグイと文字の世界に引き込んでくれました。そして、書体が持ついろいろな「文字の形」には、実はロゴづくりのための多くのヒントが隠れていることを知りました。
本来ロゴというものは、企業やブランドの顔であり、未来を左右する大きな責任を背負っています。デザインとしての魅力だけでなく、クライアントの「想い」がしっかりと込められた形なのです。
この本では、ロゴづくりの技術や考え方をはじめ、ロゴのヒントとなるいろいろな「文字の形」を知って頂きたいと思います。これらの知識と実践の積み重ねがロゴに「想い」を込められる、大切な一歩となるからです。本書が皆様のロゴづくりにとって、お役に立ちましたら幸いです。
目次
はじめに
ロゴづくりの前に
欧文書体の種類とイメージ
和文書体の種類とイメージ
文字の選び方
1欧文ロゴのテクニック
文字をカットする
文字を伸ばす
文字をつなぐ
一文字を大きくする
図形の中に入れる
一部に色をつける
違う太さを組み合わせる
シンボルを入れる
文字のバリエーションを使う
個性的な文字を使う
オリジナルの文字をつくる
エレメントに手を加える
既存の文字を使う
違う書体を混ぜる
2文字の形を知ろう
「文字の形」の分類について
A B C D E
F G H I J
K L M N O
P Q R S T
U V W X Y Z
書体一覧
ひとつ上のロゴテクニック
「先端にクセのある形」を使う
「一部をカットした形」を使う
「一部に丸みのある形」を使う
「線を伸ばした形」を使う
オリジナル文字をつくるコツ
3和文ロゴのテクニック
和文ロゴについて
文字をカットする
文字を伸ばす
シンボルを入れる
オリジナルの文字をつくる
エレメントに手を加える
アンバランスにする
欧文のパーツを使う
4メイキングで見るロゴづくり
BS1/BSプレミアム
PeopleDesign
AquaCreation
海外ネットワーク
キャッチコピー大百科
バカ親は私でした?!
あとがき
ロゴづくりの前に
日頃、私たちはロゴを「ロゴマーク」「ロゴタイプ」「シンボルマーク」など、これら全てを表す言葉として使っています。しかし、正確にはロゴタイプを略した言葉が「ロゴ」になります。そして、ロゴタイプとは文字を使って、社名や商品名をひとつのまとまりとして表すことを言います。
それでは、ロゴづくりがうまくなるには、何が必要なのでしょうか?私は次の4つのことが大切だと思います。
1.基礎的な技術を学ぶこと
2.いろいろな文字の形を知ること
3.質の高いロゴを見ること
4.しっかりと自分の頭で考えること
「学ぶこと、知ること、見ること、考えること」。ロゴデザインに限ったことではありませんが、これらがロゴをデザインする上での「アイデアカ(発想力)」「技術力」、そして「センス」を養い、能力を伸ばします。現在、世の中には、たくさんのロゴが溢れています。そして、良いものと、そうでないものが当然あります。「良いロゴ」についての考え方は、人それぞれだと思いますが、私はこのように考えています。「企業や商品のコンセプトがしっかりと込められ、且つデザイン的に魅力的なもの」。
若い時には、どうしてもカッコ良いデザインをしたいものです。しかし、形だけを追ってしまうと、中身の無いうわべだけのデザインになってしまいます。また、その逆もあります。コンセプトはしっかりと込められているけれど、デザイン的に魅力的でない場合です。デザインとは、やはり見た目の美しさや意外性など、見る人を惹きつけることが必要なのです。この2つを上手く兼ね備えたものが、良いロゴだと考えています。それではロゴづくりの実践を学ぶ前に、ロゴには大きく分けて下記の2種類があることを、まずは知ってください。
1.オリジナリティのあるロゴ
企業や商品の内容に合わせ、デザインをしたものです。それぞれの特長やコンセプトを踏まえてデザインするため、企業や商品を表す究極の形になります。
2.既存の書体をシンプルに組んだロゴ
既存の書体から、最も適した書体をセレクトする方法です。欧米などで使われる手法で、高級ブランドなど、本物感を演出する場合に適し、流行にも左右されないという利点があります。
本書では、日本のデザインの現場で多く求められる「オリジナリティのあるロゴ」のつくり方を紹介していきます。ロゴの場合は、まずは書体選びがポイントになりますので、そのことを簡単に説明したいと思います。
欧文書体の種類とイメージ
ここでは、欧文書体を大きく分類し、書体が与えるイメージや効果を簡単に解説します。まずは、大まかな文字の種類と印象を知ってください。
[セリフ書体]=高級感・格調
和文書体で例えるなら、明朝体にあたります。「高級感」「格調」「伝統的」な印象を与えます。大きく分けると2種類あり、ブラケットセリフ(左)は古典的な印象、ヘアラインセリフ(右)は近代的な印象になります。
※ブラケットセリフは、先端のセリフ部分が手書き風のもの。ヘアラインセリフは、一本の線のように非常に細くなっているもの。
[サンセリフ書体]=現代的
こちらは和文書体でいえば、ゴシック体にあたります。セリフ書体に比べ、現代的な印象です。私の場合は、太い書体は「信頼感」や「安定感」。細い書体は「軽やかさ」や「スタイリッシュ感」を出したい時に、それぞれを選んでいます。
[スラブセリフ書体]-インパクト
どっしりとした厚いセリフが特長です。もともとは広告用に人目を惹くためにつくられた書体で、セリフとサンセリフの両方のイメージを併せ持っています。文字にインパクトを出したい時に効果的です。
「スクリプト書体]=洗練/親しみ
手書き風で、次の文字につながるように書かれた「筆記体」です。大きく分けると2種類あり、美しいカリグラフィの文字(左)は、洗練さや高級感を与え、サインペンで書いたような文字(右)は、親しみやすく温かな印象になります。
「ディスプレイ書体]=個性的
広告物や看板などのタイトル用につくられた、デザイン性の強い書体です。ディスプレイ書体は幅が広いため、種類が膨大にあります。個性的な印象を与えたい時に効果的です。
[銅版系書体]-高級感・知的
最後にもうひとつ知っておくと良いのが、銅版印刷系の書体です。柔らかな金属の板に彫刻刀や鉄筆で彫った文字が元になっています。高級感や上質さ、知的な印象を与えることができます。
※スクリプト書体の一部(例えば、ShelleyAllegroScriptや、SnellRoundhand)も、このカテゴリーに入ります。
和文書体の種類とイメージ
欧文同様に、和文書体を大きく分類し、書体が与えるイメージや効果を解説します。
ロゴづくりの参考にご覧ください。
[明朝体]=格調・フォーマル
明朝体は、「高級」「洗練」「格調」「クラシカル」「フォーマル」といった印象を与えます。ゴシック体よりも見た目はシャープな印象になり、真面目さや繊細な印象を与えます。
[ゴシック体]=現代的・カジュアル
明朝体に比べ、「現代的」「カジュアル」「若さ」「親しみやすさ」といった印象を与えます。同じゴシック体にも、左のように手書きの筆の運びを感じさせるものや、右のように定規とコンパスで書いたようなものがあります。
[丸ゴシック体]=かわいさ・安心感
ゴシック体の先端が丸くなったもので、ゴシックの特長である「カジュアル」や「親しみやすさ」に加え、「かわいさ」や「温かみ」があり、見る人に安心感を与えます。
[筆書体]=伝統・和風
筆で書かれたような文字を言います。筆書体には、楷書、行書、隷書、草書、勘亭流など、さまざまな種類があり「伝統」を感じさせます。和風な印象や、古典的な雰囲気を出したい時に効果的です。
[デザイン書体]=個性的
欧文書体のディスプレイ書体同様に、このカテゴリーは幅広く、左の「フォーク」のように、真面目な印象のものから、右の「キリギリス」のように、くだけた書体まであります。求めるイメージに合った書体を的確に選ぶことが大切です。
[築地体/秀英体]-上品/リズム感
もうひとつ、ぜひ覚えておきたいのが、明朝体を代表する2つの書体です。左の「築地体」は、やわらかなフォルムで上品な印象を与えます。右の「秀英体」は、文字が流れるように素早く書かれているため、リズム感や躍動感を与えます。同じ明朝体にも、このような違いがあることを知っておきましょう。
文字の選び方
現在、欧文書体は世界に数万書体、和文書体は国内に二千書体以上あります。すべてを憶えることは難しいので、前ページのように、まずは書体の大きな分類と、それぞれが持つイメージを知っておくと、ロゴづくりの際にとても役立ちます。
次に、知っておきたいのが、先方からのオーダーに適した書体の選び方です。
ただし、ひとつお断りしておきます。例えば、クライアントが「先進感を求めているなら、この書体が適しています」という単純なことではありません。実際の現場では、いくつもの要望が複雑に混ざり合っています。例えば、「先進感や高級感のあるロゴをつくって欲しい。イメージは、重厚な感じよりも現代的で洒落た印象を希望している。それと競合他社との区別化も図って欲しい」等々。
このようにクライアントには、いろいろな想いがあります。それらの要望を受けて、各案件ごとに最も適した書体を選ぶ必要があるため、「先進感なら、この書体です」と単純に言い切ることは適切ではないのです。そのため、ここでは文字の選び方のヒントを紹介します。各案件にもっとも適した書体を選ぶ手助けになればと思います。
私の場合、これらのことを踏まえながら、ロゴにする単語をたくさんの書体で実際に組み、各書体から受けるイメージをそれぞれ検討して、ベースとなる文字をその都度選んでいます。
先進感
ゴシックもしくは明朝に平体をかけたり、斜体をかけると効果的です。また、定規とコンパスで描いたような幾何学的な書体も向いています。
高級感
明朝もしくは、銅版系の書体が向いています。文字間をゆったりとあけることも効果的です。ワインのラベルのような高級感であれば、スクリプト書体も良いでしょう。場合によっては、細めのゴシック等も候補として考えられます。
かわいい
丸ゴシックや、手書き風の書体を使うと効果的です。かわいいの中でも、大人っぽいかわいさなのか、子供っぽいかわいさなのかで、選ぶ書体や太さも変えましょう。
堅実さ
太めのゴシックをシンプルに使うと良いでしょう。ロゴにあまり手を加えすぎないことがポイントです。格調なども同時に求められる場合は、太めの明朝も良いでしょう。
エレガント
細めの明朝、もしくは明朝とゴシックが混ざったような書体(例えば、欧文でいえば「Optima」等、和文でいえば「フォーク」等)の細めのものが向いています。オーダーの内容によっては、スクリプト書体も良いでしょう。
ナチュラル
手書きの文字が向いています。実際に自分で文字を書くか、もしくは手書き風の書体を使うと効果的です。
現代的
現代的なものや、新しさを求めている場合は、オリジナルで文字をつくるか、デザイン性の強い個性的な文字をベースにすると良いでしょう。
※明朝やゴシックと表現したものは、欧文でいえば、それぞれセリフ書体、サンセリフ書体と考えてください。