増補改訂版 レイアウト基本の「き」

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レイアウトの基礎が身に付く
レイアウトの基本、デザインの基礎がぎっしり詰まった一冊です。この一冊でレイアウトデザインの基本を一通り学ぶことができます。説明や事例がとても丁寧に書かれていて、初心者でも詰まることなく楽しく読み進めることができます。読み終えた頃にはしっかりと基礎が身につき、よりデザインが好きになっているでしょう。
はじめに
この本は、『レイアウト、基本の「き」』というタイトルどおり、レイアウトの基本について書かれた本です。DTPが普及するようになって20年以上経ち、かつてはプロフェッショナルのみの領域にあったデザインやレイアウトも、かなり多くの人が実践するようになりました。この流れはこれからもどんどん進んでいくでしょう。専門的な教育を受けることなく「気がついたらデザインやレイアウトらしきことをしていた」という人も増えていくに違いありません。そうなると、実践の途上で「これっていいのかな?」と途方にくれることも多くなるはずです。
そんな時に頼れる本がつくれないかなと考えました。
レイアウトというのはつまるところ配置のことですが、では配置の基本とは何でしょう?
(「部屋のレイアウト」というように空間的な配置を指す場合もありますが、ここでは、紙上であったりモニターであったりの、平面の情報を対象とします)
たとえば、今あなたが読んでいるこの紙面。快適に読めているでしょうか。そうだとすると(あるいはそうでないとすると)何がそうさせているのでしょう?
ひとことで「よいレイアウト」「美しいレイアウト」といっても、長期的に支持されてきた部分も、その時代ならではの感覚にフィットしている部分も混在しているのが普通です。まずはそこを見分ける眼力を養わなければ、目的に合わせて自在にレイアウトすることなどできないのではないでしょうか。
レイアウトの本はたくさん出ていますが、そうした「基本」について触れられたものは意外になく、いきなりノウハウに入っていくようなものがほとんどです。つまるところコンピュータのアプリケーションをどう上手に使いこなすかに直結した内容になっています。もちろんそれはそれで需要があってのことなのでいいのですが、この本の狙いはそこにはありません。アプリケーションのバージョンなどとは関係なく、長くレイアウトやデザインとつきあっていくことを念頭に構成しています。
増補改訂版では色を決めるための手がかりになる項目を加えました。経験を積んだデザイナーは無意識に選んでいることの多い色ですが、制作物のイメージを左右する要素なので、あらためて意識的になってみることが必要と考えました。他の改訂部分も「意識的になってみる」という、レイアウトの基本を押さえる上で必要な点を検証し直しています。
本書は、2012年6月に刊行した 「レイアウト、基本の「き」」の内容を見直し、あらたな項目を入れて再編集した、増補改訂版です。レイアウトの基本的な考え方やそれを説明する作例などは「レイアウト、基本の「き」』と同じ内容です。
目次
はじめに
CHAPTER 0 レイアウトを「見」てみる
CHAPTER 1 全体構成を考える
1 目の流れ
2 優先順位
3 面を分割する
4 ラフを切る
5 ラフから実制作へ
6 ガイドラインを使って考える
7 ページネーションの考え方
8 印刷の制約からくる制限
CHAPTER 2 書体について考える
1 文字を意識しよう
2 本文書体の選び方
3 様々な書体(明朝編)
4 様々な書体(ゴシック編)
5 欧文書体の選び方
6 様々な欧文書体
7 本文書体のサイズ
8 行間と行長について
9 段組みの考え方
10 字間と文字詰め
11 和歌混植
12 約物の処理
13 タイトルの書体とサイズ
14 文字を加工する
15 リードと見出しのルール
16 文字組の流れ
17 ノンブルと柱
CHAPTER 3 写真やイラスト
1 写真やイラストを配置する
2 複数写真の意味
3 複数写真の扱い方
4 写真のトリミングと切り抜き
5 写真と文字
6 写真の補正と加工
7 データ解像度ほか
CHAPTER 4 チャート、地図、表、グラフ
1 わかりやすい図版とは
2 地図をつくる
3 表をつくる
4 グラフをつくる
CHAPTER 5 色の選び方、配色
1 色の種類
2 印刷の色について
3 色のイメージ
4 単色を決める
5 単色でイメージを広げる [赤]
6 単色でイメージを広げる [青]
7 単色でイメージを広げる [黄]
8 単色でイメージを広げる [緑]
9 単色でイメージを広げる [紫]
10 単色でイメージを広げる[黒]
11 色の組み合わせ
12 地色と文字色
13 写真やイラストと文字色の関係
14 複数の色を使いこなす
おわりに
CHAPTER 0 レイアウトを「見」てみる
さて、では突然ですが、右の●を見てみてください。
囲みの中の真ん中に置かれていますね。
でも本当にそうでしょうか。
もう一度よく見てください。
これじつは真ん中には置かれていないのです。
では、どう置かれているのでしょう。
さらによく見て、答えを探してみてください。
本当の真ん中は次の頁です。
2つを比較してみれば、今、あなたが見ている●が、
どう真ん中ではないかがわかります。
では、どうぞ頁をめくってみてください。
どうでしょう? こちらは少し下がって見えませんか?
数値的に真ん中に置くと、なぜだか下がって見えるのです。
ですから、「真ん中に見せたい」とき、トレーニングを積んだデザイナーなら、
少しだけ上に置きます。
「レイアウトがうまい」ということの大半は、
こうしたことが自然にさっとできるようになっていることを言うのだと考えて、
まず間違いありません。
この本は、何らかの事情でデザインやレイアウトをすることになった、
すべての人を対象にしています。
ですから、デザインの経験は一切問いません。
そういう人が、読んだ後に、自分自身で
「レイアウトがうまく」できるようになったと実感できるようにしました。
一方、あなたがもし経験を十分に積んだプロのデザイナーだったとしても、
読む前と読んだ後では、変化があるのではないかと思います。
この本を書くにあたって、作者自身が、書く前と書いた後で、変化が起きるようなものを心がけたからです。
デザインやレイアウトは、なんら特別なものではなく、しゃべったり書いたりすることの延長くらいになっていくと考えます。それはとてもワクワクすることですし、そうやって広がっていった裾野から、今までにないデザインやレイアウトを発想する人も出て来ることを確信しています。しゃべったり書いたりすることが日常的に豊かにあってはじめて、 話芸や文芸が開花してきたように。
デザインやレイアウトは時代に合わせながら生きているものなので、標本のような「素晴らしいお手本」をぼんやりと眺めているだけでは、次に繋がりません。どうしても「意識して見る」ことが必要になります。それがすべてのスタートなのです。「●が真ん中に見えていないな」と気づくこと。「意識して見るようにしなければ「その瞬間」は絶対にやってきません。逆に言えば、意識さえすれば、誰でも気づくことなのです。気づきさえすれば、そこに手を加えることができるようになります。真ん中に見せたいのに下がって見える。ではちょっとだけ上に。まだ真ん中に見えない。ではさらに上に。上がり過ぎた、では戻そう、というように。
レイアウトは「意識して見る」ことから始まっています。
読みやすいレイアウトとは?
・ださい。どうでしょう。問題な
る時、そんなことはいちいち気にし
う。問題なく読め
ではさっそくですが、右頁の文章を読んでみてください。
どうでしょう。問題なく読めましたか?
普段、読書をしている時、そんなことはいちいち気にしていないかもしれま。
しかしそれは「何もなされていない」からではありません。
読書に集中してもらえるよう、誰かがわざわざ、気にならないようにしているからです。
ここにはいくつかの要素があります。ざっとあげると…
文字(書体・大きさ・ウエイト・色)
縦組み/横組み
字間と行間
1行の長さ(1行の文字数)
1頁の行数
地の色
天地左右のアキ空間
こうした事柄が吟味されています。デザイナーはよく「自分がデザインした」というようなことを言いますが、その要素自体は、過去から受け継がれてきた慣習やルールに基づきながら吟味された結果としてあります。そのバトンを受け、また、渡す行為の中にこそ、デザインやレイアウトは存在していると考えるべきでしょう。
では、右頁のレイアウトには、どのような配慮があるのでしょうか。
ここだけをじっと見ていてもなかなかわからないと思います。
ではまた頁をめくってみてください。
読みにくいレイアウトと比べて学ぶこと
どうでしょう。「こういうの好きだな」という人も、もしかしたらいるかもしれません。「何ていうか、荒くれた感じでいいじゃない」と。
しかしこれが何十頁何百頁にもわたることを考えた場合、この選択肢には問題があると言わざるをえません。
最近では、デザインのヘタうまとでもいうべきものを目にすることがとても増えました。
型通りのデザインが溢れ過ぎたために必然的に求められるようになったと考えるべきですが、ヘタうまなデザインばかりになってしまうと「そもそも型ってどういうもののこと?」という部分がスッポリ抜け落ちてしまいます。
ではここであらためてレイアウトに必要な「型」の基本要素について考えてみましょう。
文字(書体・大きさ・ウエイト・色)
前頁と右頁を見比べてみてください。まず文字の形からしてかなり異なります。
大きさもウエイト(太さ)もかなり異なっています。文字の形がクッキリとして均質であり
大きくて太いから読みやすい…というわけではないことがよくわかると思います。
色は同じですが、それでも印象はまったく違います。
縦組み/横組み
どちらも縦組みですが右頁は一見よくわかりません。
字間と行間
縦組みか横組みかわかりにくいのは字間と行間の関係によります。とくに「行間が狭過ぎ る」ことはレイアウトにとって致命的です。
1行の長さ(1行の文字数)
「1行が長過ぎると読みにくい」と言われますが、行間がたっぷりあって改行を目で追いやすくなってさえいれば1行がそこそこ長くてもそれほどのストレスは感じないようです。
天地左右のアキ空間
あまりギリギリまで文字があると読みにくい傾向があるようです。経済効率的に「スペースを有効に使っている」としても、レイアウト的に正しいかどうかは別問題です。アキ空間もデザインやレイアウトの対象であると考えるようにしてください。
最近よく見る約物の使い方
新聞や雑誌や書籍等、これまで世に出ていた媒体に記されていた文字や文章には、必ずプロの校正校閲が入っていました。
しかし、インターネットやスマートフォン、フライヤー等の普及により、一般の人たちが作った文字や文章を見る機会が莫大に増えつつあります。一般の人たちがこんなに多くの文字や文章を扱うということは、じつは前例がないことなのです。それを念頭に置いておいてください。
ここで扱う文字や文章とは、あくまで印刷物となって世に出ていくものを指します。
SNS上のコミュニケーションに使われる文章については、ご自由になさってください。
しかし、印刷物になる場合は、あるルールに則った方がいいと思われます。
今回は違和感を覚える約物の例を出してみました。
最近よく見られる約物例
句点「.」読点「、」や中黒「・」の記号は、ひとつで使うことを前提に作られた文字で、連続しての使用は想定されていません。沈黙を表す時に三点リーダー「・・・・・・」を使いますが、この部分に「、」や「..」「・・・」を使うのは、文字を使う目的が異なります。
点が3つなので似てはいますが、そもそも違う意味のものを使っているので、解釈が拡散してしまい、間違った情報を伝えることになりかねません。三点リーダーの部分に句読点や中黒を使うと、明らかに文字間が開いて、読みづらく、意図が伝わりづらいものになってしまいます。
それは、文中や文末に「O」や「☆」等の記号を使うのも同じです。SNSのように、ある共通認識のある仲間同士でのコミュニケーションであれば問題ありませんが、不特定多数 の相手に対しメッセージを投げかける時には、約物の特性をきちんと理解使うように心がけましょう。
わかりやすく伝えるとは?
続いて、もう少し複雑なレイアウトにチャレンジしてみましょう。試しにひとつ、本書のためのチラシを作成してみました。どうでしょう?それなりに「わかりやすい」ものにはなっていると思うのですが。
「デザインがいいかわるいか」は往々にして意見が分かれるものですが、ここでは「レイアウトがわかりやすいか、わかりにくいか」だけを問題にします。
前ページで見た例は要素がとてもシンプルでしたが、それでも検討すべき事柄はけっこ
うありました。そうすると右のような例ではずいぶんといろいろなことを考えなければならなくなってしまいそうですね。
しかし、実はそうでもないのです。
基本的には前ページまでに見てきたことの応用に過ぎません。
大きな違いは、色が加わっていることと、図版が入っていることでしょう。
しかし図版といっても置いてあるだけです。「描け」といわれているわけではありません。どう置けばわかりやすく伝わるかを考えればいいだけなのです。
文字(書体・大きさ・ウエイト・色)、縦組み/横組み、字間と行間、1行の長さ(1行の文字数)、1頁の行数、地の色、天地左右のアキ空間といったところを、単独にではなく複数の要素同士の関わり方も含めて考えてみようということに過ぎません。
そして、最初に書いたように、それは「意識して見る」ことから始まります。ただ腕を組んで、頭で考え、本を読んだりしていても、どうにもなりません。
右頁のレイアウトをあらためて、しげしげと見てみてください。覚えてしまうくらいに。
書体は? 大きさは? ウエイトは? 字間は? 行間は?
天地左右や要素の間のアキ空間は?色は?
わかりにくいものとは?
「意識的に見る」ことを経験した上で、右頁のレイアウトをみてどうですか?
あちこち直したくはならないでしょうか。
先に書いたデザインのヘタうま派の人なら「こっちのほうがぜんぜんいいよ」と言うかもしれません。だとしても「これこそが唯一絶対でこれしか素晴らしいレイアウトはない」 などということはないでしょう。
「どこをどうしたら、もっとわかりやすくなったり魅力的になったりするんだろう」
と考えてみること。何よりもそれが大切でしょう。
レイアウトとは、丸ごとで、あれか、これかというものではありません。個々の要素を見
なければなりません。
一番大きいので一応ここに目がいく。しかしなんとなくしまらない感じ。
(字間や行間のことを考えていない。「適当に入力したらこう出てきた」というところ)
「読んでもらいたい」という気持ちがまったくないもののように思える。
(改行が適当過ぎるし、上の2行同様に字間や行間も不適切。書体も出たままな感じ)
字間と行間の差がないまま長く続いて読みにくい。優先順位もわからない。
(1行読んで次の行に目をやる際に、どの行かわからなくなる。メリハリもまったくなし)
せっかくの星の数をつけているのになんだかわからない。
(「本書の星の数は?」は他と差別化すべき情報)
小さくていいものもすべて同じ大きさ。
(調整の意思ゼロ)
手に取る気持ちにさせない販促チラシはやはり問題です。
「他のやり方」とは?
さて、では他にどういうレイアウトの仕方が考えられるでしょう。
とにかく言えることは、あまり早々に「これしかない!」と思わない方がいい、ということです。ちょっと視点を変えてみれば、いくらでも「他のやり方」は見つかるはず。
右ページを見てください。同じ内容のチラシですが、21ペードのものとはまたずいぶんと趣が異なります。
どちらがいいかは一概にはいえません。
配ろうとしている場所はどういう場所で、そこで手渡そうとしている人はどういう人なのか。そういうことだけでも判断はずいぶんと変わるはずです。
右ページのレイアウト、21ページのそれと比べてどうでしょう?
こちらの方が空間がたっぷりとられています。
ということは全体的に文字は小さくなっているはず。それでもこのほうがいいのではない か?という判断があるからこそ制作されているわけです。
他に大きく異なっているのはメインの書体です。
書体の持つ雰囲気によって感じ取られるものも変わります。
色の考え方もずいぶんと違っています。
商品である本自体は同じ色なのに。
様々な判断の分かれ目はどこにあって、どういう選択をすればいいのか。
それをこれから具体的に学んでいこうと思います。
最初から通しで読んでもらってもかまいませんし、気になるところを拾い読みしてもらってもかまいません。デザインの現場からの生の報告です。